切開手術−4回めの狭窄 [2014年7月14日(月)−2014年9月27日(土)]

「伝を頼って性別適合手術に詳しい執刀医を探す」と言っていたK医師ですが、1箇月の後に行なった造影剤を使った検査の結果、前回手術時よりも狭窄の程度がましになった(回復した?)のを見つけ、「もう一度同じ手術をさせて」と言い出しました。

 

もう2回同じ手術をして2回同じ結果になったのだから3回めは望むべくもないと思った私は、「いや、もう切って(切開手術をして)ください」とお願いしました。

 

「切開しての尿道形成でいいんですね?」との問いただしに「はい」と答えて切開手術が確定、それに伴い手術日が決まりました。 2014年7月14日(月)がその日です。別に執刀医を探すということを言っていましたが、今回の手術もK医師が執刀することになりました。

 

入院までは2週間に1回通院して、膀胱内の洗浄と膀胱瘻カテーテル交換をしていました。この膀胱瘻カテーテルの交換が、何とも言えない、ほかに例えを挙げられない独特の痛さを伴う処置で、しかしそれさえ我慢すればカテーテルからの排尿はスムースにできていたし、快適ではありました。

 

この頃までに、「いつ来るか判らない尿意」は次第に起きなくなってきていました。はっきりと尿意を感じるより先に何となく排尿したいかな?くらいの段階でトイレに行くことが習慣づいたからかもしれません。

 

「一旦洩れはじめたら幾らがんばっても排尿を止められない」については、これはなくならないままなので長時間の外出時には念のため大人用おむつをはくか、尿洩れパッドを使用する必要があります。

 

K医師による手術も3回めになると入院の要領も術前の日の過ごし方も慣れたもので、特に緊張もなく過ごしました。術日2日前に入院して術日までは毎回尿を採取して尿測をして、術日2日前の夜に緩下剤を服み、術日前日にもっと強い下剤を服み、術日当日の朝は浣腸をして腸内を空っぽにします。術日前日の夕食を摂ったら絶食に入り、術日当日の朝6時以降は水も飲めなくなります。

 

K医師の術前説明によると、「会陰部を切開して、断裂した尿道(性別適合手術で形成された新しい尿道)をオリジナルの(生まれ持った)尿道まで引っぱって繋ぎます。

 

ネイティヴ男性の場合は尿道粘膜があるのでこの処置できちんと繋がるのですが、私(筆者)の場合は腕から採取した皮弁で尿道がつくられていて粘膜がないので、きちんと繋がるかどうか判りません。この手術で駄目だった場合は、口腔粘膜を培養したものを移植しての手術が必要になるでしょう」とのこと。

 

術式は異なりますが、手術を受ける人(筆者)から見れば、前回2回の手術とすることは変わりません。前段のように尿測や腸内を空っぽにして、手術室に入ります。手術台に寝て、麻酔剤を点滴しはじめると速やかに入眠してしまいます。次に目が覚めたときには手術は終わっています。今回も全身麻酔です。

 

目が覚めると傷(手術創)の痛みはほとんどなかったのですが、前回の退院時にぎっくり腰をやってしまってずっと腰に痛みを抱えていた状態だった私は手術時間が長かった(3〜4時間?)せいもあり、また傷の痛みもあるので姿勢を変えられなくて、非常に腰が痛くて目が覚めて直ぐに鎮痛剤(座剤)を貰いました。

 

しかしそれでも腰の痛みは引かず、更に点滴による鎮痛剤投与をして貰いましたがそれもほとんど効かない状態で、痛くて息苦しい状態でした。

 

痛みで呼吸が浅くなってしまったのがよくなかったのでしょう、そこから過呼吸を伴うパニック発作(パニック障碍の発作)を起こしてしまい、看護師のみなさんを慌てさせてしまいました。

 

看護師が呼びかけても、呼びかけられていることは判るのですが答えることができず、血圧計やら心拍計やらで測定されまして、その測定値を見れば危険な状態ではないということが判ったらしく、その後はナースコールを持たされて放置でした。

 

それでも痛みは引いていないので過呼吸が治まった頃にナースコールを鳴らして「痛い」と訴えると、鎮静剤を筋肉注射してくれまして、それで何とか痛みがやわらいで、かつ眠くなって、なし崩し的に眠り込んで翌朝を迎えました。

 

術日前日の夕食を最後に、術日当日は絶食です。術日翌日は1日粥食で、粥食の日の朝食は地元の郷土食である茶粥が供されます。

 

 

写真は茶粥とじゃがいもの煮もの、豆腐の煮もの、牛乳という朝食のメニュー。昼食、夕食は普通の白粥です。

 

執刀医のK医師によると「(尿道を)引っぱってくっつけました。開けて(切開して)みたら思ってたよりひどい状態だったけど、何とかやりました。これで治ってくれたらいいんだけどね」。何だか頼りないコメントです。内視鏡による手術とは異なって、入院は2週間です。

 

術日翌日から3日間は1日2回の抗生剤の点滴、4日めからは抗生剤の服薬を行ないます。

 

術後9日めに造影剤を使ったX線検査があり、手術をした部分の経過を見ました。検査の結果は問題なかったのですが、術創の治りがK医師の予想より遅れていて、つまり傷が塞がっていなくて、入院を2週間延長などと言われてしまいました。

 

計1箇月も入院するのか、とがっくりきましたが、実際には2日間の延長で済みました。計16日間の入院でした。2014年7月28日(月)退院です。

 

退院後はもともと通っていた個人医の方にお世話になりました。週に1回、膀胱内の洗浄と膀胱瘻の消毒、術創の処置をして貰いました。8月一杯はそのようにして、同年9月1日(月)に尿道カテーテルを抜去しました。この頃には術創もすっかり治癒していました。以降は2週に1回の通院になります。

 

尿道カテーテルを抜去したら尿道から排尿することになります。抜去後はじめての排尿時に思ったのは「前より尿線が細い」でした。同年3月の手術後にカテーテル抜去したときの尿線は結構太くて(直径1cmくらい?)ちょっと吃驚したくらいだったのですが、今回は1〜2mmくらいで「細いなあ」と思ったのでした。

 

かかりつけ医が「前回と比べてどう?」と訊ねてきたので「尿線が細いです」とは答えたのですが、尿が線となって前に飛ぶように排泄できているので「こんなものなのかも」と思って様子を見てみることにしました。

 

最初の2週間はだいたい問題なく過ぎました。「だいたい」というのは、少し問題があったということです。数回に1回、だいたい2割くらいの確率で「尿が前に飛ばない」ことがあったのです。ぽたぽたと滴になって尿道口からそのまま落ちる状態です。「あれっ?」と思いましたが、「ぽたぽた」ばかりが長く続く訳でもないし、そのまま様子を見ました。

 

続く2週間の間に、「ぽたぽた」の割合が3割になり4割になり増えてきて、2014年9月25日(木)の夜には「出ない」ことも混じるようになりました。「ぽたぽた」と滴も出ない状態です。

 

さいわい膀胱瘻のカテーテルはまだ残してあったので、尿道から排尿できなくてもカテーテルからの排尿ができたのですが、通院日に当たっていた翌日9月26日(金)にかかりつけ医に尿が出ないことを訴えました。そうするとかかりつけ医が「カテーテルを入れてみましょう、入らなかったらちょっとまずい」と尿道口から細めのカテーテルを挿入しました。

 

しかしカテーテルが或るところに到達すると私が痛がってそれ以上進めないことが判り、かかりつけ医がその手で総合病院のK医師に連絡を入れてくれて、「直ぐに総合病院に行くように」と指示をくれました。

 

「直ぐに」とのことだったので、かかりつけ医の病院を出たその足でK医師の許に行きました。すると膀胱鏡検査の指示があったので検査室に入ったところ、K医師が自ら検査を行なうとやってきました。膀胱鏡検査とは尿道に軽い麻酔剤を入れて、尿道口から膀胱まで内視鏡を挿入して内部の状態を見る検査です。

 

「何処の部分が狭窄しているのかを調べるんだな」と思っていました。麻酔剤の注入があって、内視鏡が入ってきます。やはり或る一点に到達すると痛みがあったので「痛い!」と訴えました。それ以上のことはやめてくれるのだと思っていたので。

 

しかし、内視鏡の挿入はそこで終わらずにどんどん奥へ進めようとしてきます。無茶苦茶痛いので「痛い!痛い!痛い!」と痛いを連発して訴えました。K医師は「ああ、痛いねえ」とは言うもののやめてくれません。

 

暫く続けた後、ようやく無理な挿入が止まったのですが、K医師ともう一人立ち会っていた医師がモニタ画面(内視鏡が映したもの)を見て「ここが通れば行けそうな気がする」とか何とか相談しています。

 

造影剤を注入したり撮影したり、また内視鏡を奥へ突っ込んだり、膀胱瘻からも内視鏡を入れてぐりぐり動かしたり私が「痛い!」(と言ってるつもりが多分言葉になっていない)と絶叫して暴れたり(痛くてじっとしていられない)、そんなことが小一時間続いたでしょうか。

 

私はまた過呼吸によるパニック発作を起こしました。どうもパニック発作というのは精神科の看護師でもないと判らないのか、過呼吸でぜーひー言っていても「どうしたの?」と訊いてくる始末で。パニック発作中は何を訊ねられても直ぐに答えられるようなものではありません。

 

それでも何とか一ト通りのことが終わりました。K医師が「通ったよ、入院しなくてもよくなったよよかったねえ」などと私に言いました。どうやら狭窄していた部分を軽い麻酔しか使っていないのに無理矢理拡張して尿道カテーテルを膀胱まで通したようです。

 

つまりこれは検査ではなく最早や手術したのです。

 

中途で局所麻酔剤を追加してはくれましたが、私は局所麻酔があまり効かない体質です。麻酔なんて効いていないのと同じで、鬼のような痛さでした。鼻から口の方へと通じるように太いゴーヤでも無理矢理突っ込まれたような痛さです。「鼻から西瓜を出すよう」だと言われている出産に近いものがあったのではないかと思います。

 

ともあれ、4回狭窄した尿道は4回拡張されてカテーテルが挿入されました。 排尿ができないという状態は解消されたのです。

 

さて、今後ですが、何度手術をしても狭窄が再発するので、ステントを挿入する必要があるというK医師の見解です。ステントというのは、血管や気管や、管状の部位を内側から拡張するために挿入される金属製の編み目の筒です。前立腺肥大などで狭窄を起こした尿道にも用いられるものだそうです。

 

これもネイティヴ男性ならステントを挿入・留置したら尿道粘膜がそれを包んで定着させる働きをするのですが、私のように皮弁で新しくつくった尿道だと安定するかどうか判らないとのこと。以前、K医師が言っていた「口腔粘膜を採取・培養して移植する」という手術が必要かもしれないそうです。

 

その手術をいつ行なうか、誰が(K医師か、別の病院の泌尿器科医か)、何処で(私がこれまでお世話になっていた総合病院か、他府県の病院を頼って行くか)行なうのかは今後のこととして、当面は尿道カテーテルと膀胱瘻カテーテルを管理していくことになりました。

 

これが2014年9月27日(土)現在の状況です。

 


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