土産探訪と錯覚の第3日 [2005年9月11日(日)]

今日も晴れ。そろそろ土産ものを揃えておいた方がよいか、と目覚め際に思う。タニヤ通りのデパートに手頃な店があるとガイドブックに書いてあるのを見た。行ってみようか。

 

しかし少し頚部が重怠い。持病が出てきたか。けれども、ひどくなっても服む薬は手許にない。

 

ひどくなったときのことはひどくなってから考えよう。

 

起き出してキッチンへ向かう。ベッドの枕許にはいつものように20バーツをチップとして置く。

 

喰うものを喰うと出るものが出る。

 

排尿は普通にできるようになった。少し前まではそうっと解放していたが、もうその必要もない。しかし排便はまだ怖い。それがぼくの身体は判っているのか、やや軟便の状態が続いている。軟便なら力まなくても出せる。

 

まだ頚部の怠さを感じながらもサラデーン通りを歩いてシーロム通りへ向かう。起き抜けに考えていた通りにタニヤ通りへ行こう。タニヤ通りはサラデーン通りからシーロム通りを横切った先にある。

 

タニヤ通りにはタニヤプラザというデパートがあって、そこの2階に「タムナン・ミンムアン」という籐や竹で編んだ籠を売る店がある。そこで家族や友人向けの土産を小一時間掛けて択んで買った。静かな店だった。

 

さて、買いものもしたしちょっと調子が思わしくないし、昼食を買って直ぐに帰ろうとタニヤプラザを出て、通りを見渡した。そのとき。

 

日本語だらけのタニヤ通り

 

上の写真で判るだろうか。タニヤ通りの写真なのだが、出ている看板を見てほしい。どの看板も日本語が書いてある。日本語がない看板の方が少ない。探さないといけないくらいだ。

 

……ここは、バンコクか? ほんとうに外国か? もしかしたら東京か何処かじゃないのか?

 

何だか騙されているような錯覚も覚えた、更にそのとき。見つけてしまった。

 

有馬温泉て…

 

「有馬温泉」だ。この店の看板には間違いなく「有馬温泉」と、漢字で書いてある。頚部の怠さも手伝って、頭がぐるぐるしてくる。

 

この「有馬温泉」は、扉を見てお判りの通りフットマッサージの御店。足を揉んでくれる店の名が何故「有馬温泉」なのかは謎。

 

とにかく、日本語はタイでは「恰好いい外国語」ということになっているらしくて頻繁に使われているが、その意味なんて深くは捉えられてはいないのかもしれない。コンビニエンスストアではこのような品も見掛けられる。

 

タイの日本茶

 

「もし」というお茶が売られている。もし。もしかすると「hello」くらいの意味合いで使われているのかもしれない。……「if」ではないだろう。多分。

 

その隣りには「緑茶」と書かれた札が首から下がっているお茶が並んでいる。緑の緑茶と赤い緑茶。ボトルの色ではなく、お茶が緑と赤なのだ。緑はいいとして、赤ってどうよ。

 

その赤さは紅茶どころではない。アセロラジュースのような赤さだ。緑茶に赤い色を着けて「緑茶」という札を付けて……それでいいのかタイの人。

 

ちょっとめずらしいタイの食べものを昼食と夕食に買ってからホテルに戻ろうと予定していたが、頭のぐるぐるがほんとうにひどくなってきたので、ファストフードで茶を濁すことにする。シーロム交差点にはMクドナルドがある。

 

サワッディードナルド

 

タイのド○ルドは合掌して「サワッディー」と御挨拶している。流石仏教国。ちなみにケン○ッキーフライドチキンもあるがカー○ルサンダースおじさんはいなかった。

 

Mクドナルドは写真を撮るだけにしておいて、バー○ーキングで買いものすることにした。Mクドナルドはぼくが住む街でも入ることができるが、バー○ーキングはぼくの街にはなく入ったことがないからだ。

 

日本のファストフード店のほとんどは接客カウンタにメニューが置いてあって、「これとこれとこれ」と指差して注文することができる。タイでもきっと同じだろうと思って入ったのだが、メニューがない。天井近くに掲げられたメニューは日本と同様にある。それを見て注文することになる。

 

掲げられたメニューには番号がふってある。その番号を言えば品名を言わなくても注文できる。品名がタイ語でしか書かれていないからこれは助かる。

 

ファストフード店と言えば「fast」つまり「速い」ことが特徴だが、タイのファストフード店では「待たされる」ことを覚悟しておいた方がよい。あまり「fast」ではない。レジが空いていても店員が手空きでも、暫く放っておかれる。日本なら客の誰かしらが「早くしろ」と文句を言うのだろうが、タイの人はまったく気にしていない。

 

タイの人の接客態度がよろしくないのではなく、日本人が急勝で他人に対して真面目を要求しすぎるのだろう。日本人はカリカリし過ぎなんだよなあ、と思った。

 

ハンバーガーだけでは栄養面で不安があるので、コンビニエンスストアで野菜ジュースを買う。気休め程度にはなる。ミネラルウォーターも買っておかなければ、生水を飲むのは危険だ。

 

という訳でコンビニエンスストアは頻繁に利用することになる。今日はタイに来てからはじめて見掛けたプリンを買った。タイのコンビニエンスストアではゼリーを沢山見掛けるがプリンは滅多に見ない。

 

タイの野菜ジュース

 

この野菜ジュースはパッケージを見ると青臭くて飲みづらそうだが、そんなことはまったくない。コップに注いで何も言わずに出されたら果物のジュースかと思うくらいに甘い。キウイの香りがする野菜ジュースもめずらしいのではないだろうか。

 

タイのコンビニエンスストアは、先にも述べたように沢山ストローをくれる。だが、プリンを買ったにもかかわらずスプーンをくれなかった……。

 

食事と入浴と洗濯を済ませた後はぐったり。

 

疲れが出てきたのか持病のせいなのかは判らないが少ししんどい……かな? おとなしく横になっておく。

 

ガイドのM氏から電話が入って、明日病院へ行く時間を教えて貰う。0930時にロビーで待機。迎えに来てくれるとのこと。

 

リビングのソファに寝転がってぼんやりTVを見る。タイの番組を択んで見る。言葉は全然判らないが、コメディドラマは言葉が判らなくても笑える。しかし、何かおかしい。画面に「ぼかし」が入っている。

 

その画面をよくよく見ても、いかがわしいものが映っている様子はない。何故ぼかしを入れなければならないのだろう。

 

……足だ。

 

ひとりの俳優が足にギブスをつけて怪我人の役をしている。その足に、共演者たちがうっかり(わざと)ものをぶつけたり殴ったりして、そのたびに怪我人が大袈裟に痛がる。可能な限り足首から先は映さないような構図を取っているが、足首から先―――足の裏が映ってしまったときはぼかしを入れているのだ。

 

タイでは「足の裏」が御法度だ。人を蔑む言葉の最たるものとして「足の裏野郎」が挙げられるくらいだし、寺院などで胡座や結跏趺坐等ですわったとき、仏像や僧侶に足の裏が向かないように気を付けなくてはならない、という注意を聞いたことがある。

 

それほど足の裏は忌むべきものとされている訳だが、TVに映すことさえ憚られるものだとは想像もしなかった。畏るべし異文化。

 

横になってぼんやりしていると身体がむずむずしてくる。深奥が疼くような血流がはげしくなってきたような……これは、あれだ。余程回復が顕著で生命力が強く働いているのだろう。食欲も出てきたし睡眠欲もなくなることはなく、三大欲求の何れもが明らかになってきた。

 

つまり性欲が戻ってきたのである。亢進したと言うべきか。しかし身体を自由に動かせる訳でもなく相手がいる訳でもなく、解消の手立てはない。巧く昇華させるしかないのだが……頭の中が思春期の少年のそれと同じ状態になってしまって、苛立ちが募る。

 

唸りながら枕を拳骨で殴って、気を紛らわせてから無理矢理眠った。

 


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